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| 青木 信生さん |
公的医療機関勤務
 神戸大学大学院 経営学研究科(2010年2年生として在学中) |
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| 私は、神戸大学大学院経営学研究科専門職学位過程(社会人MBAプログラム)に在籍しています。この春、無事2年目を迎えます。 |
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神戸大学MBAの教育方式の一番の特徴は、何と言っても「プロジェクト方式」のプログラムを備えていることにあります。まず入学直後の4月に、通常の科目の履修(これだけでも予習、レポート、テストとヘヴィなのですが)と平行して、「ケースプロジェクト」がスタートします。5名1組のチーム(理系チーム、紅一点チーム、等々と名付けられます)に振り分けられ、共通のテーマ(2009年は、ダントツの品質 unmatched quality でした)の下、各グループでケーススタディにふさわしい企業を1社選定し、8月にあるビッグイベント:コンペ形式の最終発表会に向けて4ヶ月間、文献調査、企業訪問、インタビュー、サーベイなどを自由に組み合わせて研究調査を行います。
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企業を訪問し現場に身を置くことは、どのようにして企業が今ある姿を実現してきたのかに思いを巡らせる機会になります。 歴史的背景などを含めた「すべて」の要因が絡んでくる「複雑な現実」の中で、自身の存在を賭けてやり直しのきかない舵切りをし、理念を体現してきた経営者のたたずまいには、「単純化された現実」である机上の「ケース」では決して触れることの出来ない深い学びがあります。 |
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そして、2009年から始まった「プロジェクト方式第2弾」が、8月にスタートする「テーマプロジェクト」です。今度は学生が自主的に5名前後でチームを編成し、好きなテーマを選んで、3社以上の企業をフィールドに研究調査を行い、翌年1月にビッグイベント(最終発表会)を迎えます。私の属したチームは「モチベーション」をテーマに選び、「変わった制度を活かして社員のやる気を高めている企業の研究」というタイトルで発表を行いました。調べれば調べるほどに、モチベーションというテーマの奥深さ難しさを知り嘆息したり、「変わった制度をもつ企業を調べているけれど、そもそも『制度』とは本質的に何なのか?」と根本的な問いにぶつかり、さながらアメリカの根源に遡る「地獄の黙示録」を観るのにも似た感覚を味わったりと、知的興奮に満ちた4ヶ月間を過ごしました。
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プロジェクトのグループワークは熱を帯びます。神戸大学の学生の特徴は、社会人として相当な経験を積んできていることです。学生の平均年齢は高めで、学生の経験を教育のリソースとして重視する指導方針がうかがえます。現役でマネジメントの立場についている学生も多く、同級生の頭の切れっぷりに舌を巻くことしばしばです。仕事上の問題意識を抱えてMBAプログラムに応募して来ただけに、非常にモチベーションが高い人たちです。また、学生はダイバーシティに富んでいます。関西が主とは言え国内各地から集まっており、英語や中国語がネイティブの学生もおり、属する業界は多彩です(ちなみに私自身は精神科医です)。
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仕事で鍛え上げてきた自負がある個人の集団において、そのコラボレーションは、知的異種格闘技の様相を呈します。キック最強!柔術最強!プロレス最強!いやいや空手最強!とばかりに、職業人として練り上げてきた構えから繰り出される一手一手、実務家としての読みの深さに、毎回目の醒める思いがします。 |
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このようにダイバーシティに富んだ集団において議論を進めていると、ある学生にとってはアタリマエのことが、別の学生にとってアタリマエでない、というようなことが頻繁に生じます。職業人としてさほど意識せず前提していたことが、MBAプログラムのフラットな関係の中では正当性を得ないことに直面する。これをきっかけに、職業人としてビルトインされてきたマインドセットを省察し、職業人としてより深く思考するよう促される。そして、互いの意見を戦わせるだけでなく、対話に乗り出して新しい知識を生み出していくように、また、クリエイティブなカオスを保持しながらも無規範な状況に陥らないように、チームワークとリーダーシップを機能させていかなければなりません。ここに、私のようなビジネスマンらしくない、古来から「方外の人」と言われる職種の者まで取り込むダイバーシティの妙味があるのではないかと思います(方外:人の守るべき道からはずれていること。俗世の外に身を置くこと。僧・画工・医者など(大辞泉))。
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このように、教授陣から学ぶのと負けず劣らず学生から学ぶことの多いのが、神戸大学独自のプロジェクト方式の強みです。鉄は鉄によって、人は人によって研がれる、です。
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H・ミンツバーグが自著「MBAが会社を滅ぼす マネジャーの正しい育て方」において指摘する「ケースメソッドが中心となる従来型MBA教育の問題点」を踏まえたときに、経験豊かな学生の強みを存分に引き出すプロジェクト方式を備えた神戸大学のMBAプログラムは、現時点で先端を行くプログラムだと思っています。
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入学後半年でゼミの選択があり、テーマプロジェクトが終わると共に修士論文作成の準備が本格化します。私の属する高橋ゼミでは、「自分が本当に知りたいことは何か?」ということを、繰り返し繰り返し問われています。職業人として経験を積んできた中で「自分が何が何でも取り組まないといけないこと」を鍛え、結晶化していく過程に、煩悶する毎日です。
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エドワード・W・サイードは、自著「冬の精神 亡命についての考察」で次のように述べています。
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アドルノの代表作ミニマ・モラリアは、亡命中に書かれた自伝であり、骨抜きにされた生活からの考察という副題がつけられている。「管理された」世界と彼が呼んだものに容赦なく対抗しつつ、アドルノは、あらゆる生が出来合いの形式フォームズ、プレハブの「家ホームズ」に押し込められていると観じた。人が所有するすべての物品のみならず、発言や思考の一切も、究極的には単なる商品コモディティーにすぎない、と彼は論じた。言語とは通語ジャーゴンであり、物品とは販売用のものだというわけである。こうした事態を拒絶することこそ、亡命者の知的使命にほかならない。
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私にとって神戸大学のMBAプログラムは、自分がこれまで親しみ、少なくとも一部は一体化してきた、職業生活という「なじみの場」から越境・亡命することによって、「経験を重ねるうちにいつのまにか意識下に食い込み、人を骨抜きにして家畜的生活へと誘おうとするもの」に対して醒めているためのツールなのです。
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初年度の4月に、研究科長から最初に「学位を得て人脈を作れればそれでいい、という人はうちのプログラムは止めておいた方がいい」とのアナウンスがありました。近年志願者が増え倍率が高くなっている神戸大学ですが、いずれ陳腐化するスキルではなく、一生の血肉となる滋養を額に汗して取り込むことを望む方、「人を非奴隷たる自由人にする学問」としてのリベラルアートに触れたい方は、神戸大学の門を叩かれることをお勧めします。
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